東京高等裁判所 昭和44年(ネ)731号 判決
三、ところで詐害行為取消権は、一般債権者のための共同の担保である債務者の一般財産の保全を目的とする制度ではあるが、破産の制度とは異り、債権者相互間における平等弁済の利益までをも保障することを目的とするものではないのであるから、債務超過の状態にある債務者が特定の債権者に対し、債務の弁済に代えて自己の財産を譲渡した場合であっても、その財産の価額が右債権者に対する債務の額を超過するものでないときは、他の債権者は右譲渡行為の取消を請求することはできず、ただその財産の価額が財産の譲渡を受けた特定の債権者に対する債務の額を超過するときに限り、他の債権者は右譲渡を詐害行為としてこれが取消を請求することができるものと解するのが相当である。而してこの場合においても、財産の譲渡を受けた特定の債権者は、その財産の価額と自己の債権額との差額に相当する金額について利益を得たにすぎないのであるから、右財産の譲渡につき取消権を行使する他の債権者は、自己の有する債権の額の限度において右利益の回復を請求することを得るに止るものと解すべきであり、この限度を超えて、当該財産そのものの債務者への回復を請求し得るとすることは、破産の制度とはその目的を異にする詐害行為取消の制度の趣旨を逸脱するものというべく、またかく解することが、詐害行為の取消は、債務者と受益者との間においても当該行為を無効ならしめるものではなく、単に取消債権者と受益者との間においてのみ当該行為の無効の効果を生ぜしめるに止るとするいわゆる相対的無効の考え方にも適合するものといわなければならない。
四、ところで、以上の理を本件についてみるに、控訴人は、訴外会社から本件建物の譲渡を受けた当時訴外会社に対し金六五万五、〇〇〇円の債権を有し、これが代物弁済として本件建物の譲渡を受けることによって右債権は消滅したのであるから、詐害行為取消権を行使する他の債権者は、本件建物の控訴人に対する譲渡当時の時価と控訴人の上記債権額との差額に相当する金額を控訴人が本件建物の譲受によって得た利益として、自己の有する債権の額の限度でこれが返還を請求し得るに止り、本件建物そのものの訴外会社に対する返還を請求することはできないものというべく、従って本件建物につき控訴人のためになされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める被控訴人の第一次的請求は失当たるを免れない。
そこで進んで被控訴人の第二次的請求につき按ずるに、≪証拠≫を総合すると、昭和四三年四月当時における本件建物の価格は少くとも金一四五万円を下らず、また本件建物敷地約八三平方米の借地権(本件建物の敷地が約八三平方米の借地であることは当事者間に争いがない。)の価格は少くとも金三〇〇万円を下らないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。≪証拠≫によれば、本件建物には訴外株式会社日本相互銀行のために、昭和四一年七月二三日付継続的手形割引契約、継続的貸付契約、継続的相互掛金契約による同年一二月一四日付設定契約に基く元本極度額金二〇〇万円なる根抵当権設定の登記がなされ、その後昭和四二年九月二七日付をもって右元本極度額を金四〇〇万円とする旨の根抵当権変更登記がなされていることが認められるが、≪証拠≫を総合すると、昭和四三年四月二日訴外会社が手形不渡を出して倒産した当時、右根抵当権によって担保される日本相互銀行の訴外会社に対する債権は現実には存在していなかったものと認められる。
してみれば、控訴人は、訴外会社から本件建物とともに、その敷地約八三平方米の借地権の譲渡をも受けたものと解すべきであるから、代物弁済として本件建物の譲渡を受けることによって、建物と借地権の昭和四三年四月当時における前認定の価額の合計金四四五万円から控訴人の訴外会社に対する債権額金六五万五、〇〇〇円を控除した残額金三七九万五、〇〇〇円に相当する利益を受け、右金額の範囲で訴外会社の一般財産を滅少せしめたものというべく、従って控訴人は本訴によって取消権を行使した被控訴人に対し、右受益額の限度内である被控訴人の訴外会社に対する債権額金二〇〇万円およびこれに対する被控訴人が当審において予備的請求をした日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年三月九日以降右完済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものといわなければならない。被控訴人の予備的請求は右の限度でこれを認容すべく、これを越える部分は失当として棄却すべきである。
(平賀 安達 後藤文)